2026年04月08日

蜷川幸雄の仕事

新潮社のビジュアルブックとんぼの本「蜷川幸雄の仕事」を読む。蜷川さんが亡くなってもう何年になるか。彼が演出した国内外の数々の舞台のうち、ほんのわずかしか見ることができなかったが、その観劇経験は強烈な印象となって記憶に残っている。盟友・唐十郎とともに演劇の魅力・面白さを教えてくれた人だ。

唐十郎と、もう一人の盟友・清水邦夫。「劇詩人」である二人が常に蜷川に刺激を与え続けた。シェイクスピア、ギリシャ悲劇、同時代を生きた三島由紀夫、村上春樹ら日本の作家たちの作品にも影響を受けながら、次々と舞台にした。演劇評論家・翻訳家の松岡和子は、蜷川本人だけでなくスタッフの意見も取り入れながら、フリージャズセッション風の演出になっていったことを指摘していた。公演の歴史を辿ると、ジュリーから始まり、ジャニーズのタレントたち、小泉今日子ら、アイドルも多く舞台に登場させていた。蜷川は、アイドルという存在を積極的に捉えていた。多くのファンの憧憬の視線を受け止め、人気という不確かなものの上に立っているのを自覚して世界や人間を見ている彼ら。そんな素質が、優れた表現者になるのは当然だと。アイドルを見にきたファンに芝居を見せて帰す。観客を巻き込んだ化学反応で芝居を成功に導いたという。

2019年5月に見た「海辺のカフカ」。村上春樹作品で海外巡演も行われ好評を博した。赤坂ACTシアターで見たのは、寺島しのぶ主演で工夫を凝らした舞台装置に感心したのを覚えている。舞台化が難しいと言われる村上作品。哲学者の内田樹は、「海辺のカフカ」という作品に神話的構造を見出し、それゆえに舞台化が可能になったと喝破していた。蜷川は演出の狙いについて「壮大な物語に散りばめられた小さく美しいディテールをとらえること」と言っている。印象的な神話的ディテールを取り出し、磨き上げて、提示すれば、それだけで神話として機能し始める。それを直感的できるのが演出家の能力なのだろう。

蜷川幸雄の仕事 (とんぼの本) - 蜷川 幸雄, 山口 宏子
蜷川幸雄の仕事 (とんぼの本) - 蜷川 幸雄, 山口 宏子


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2026年04月07日

思い出トランプ

向田邦子の短編小説集「思い出トランプ」(新潮文庫)を読了する。雑誌連載した短編を掲載順ではなくて、トランプのようにシャッフルして掲載。直木賞をとった作品も含め13編を収めているが、わずか15ページほどの作品にそれぞれ工夫があり、一気に読了した。

向田邦子といえば、「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」などテレビドラマの脚本でおなじみ。テレビが娯楽の王様だった昭和時代、多くの向田作品でブラウン管に釘付けになった。ただ小説を読むのは初めてだったが、さすがというか、どの作品も場面、情景が絵として(画面として)頭に浮かぶのだ。小説もシナリオも本格的に書いたことはないが、ちょっとした仕草や言葉の言い回しに舌を巻いた。

一番心に残ったのは受賞作の一つ「かわうそ」。残忍さを持つ人妻の話はゾッとした。どの作品も夫婦や家族の間の機微をうまく掬い取っていて、じわりと心に沁みた。各編の扉には、風間完画伯の雰囲気ある挿絵があって、ページを繰る楽しみもあった。航空機事故で突然、この世を去った向田。作家・水上勉の解説は、向田の「芸」を評価していた。

思い出トランプ(新潮文庫) - 向田邦子
思い出トランプ(新潮文庫) - 向田邦子
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2026年04月04日

平和をつくった世界の20人

岩波ジュニア新書「平和をつくった世界の20人」を読む。戦争は二度としてはいけない、平和の尊さということをこれまでの人生で何度となく学んできたが、戦争は世界から一向になくならない。ジュニア向けの書籍ゆえに簡明な表記で、20人の思いと功績が紹介されている。ケン・ベラーとヘザー・チェイス著で欧米視点で人選されているせいもあるとはいえ、ジュニア向けでも知らない人が多かった。

戦争のやり方について教えるところはあるが、平和のつくり方を学べるところは限られている。本書では、非暴力を選ぶ、平和を生きる、多様性を大切にする、あらゆる命を重んじる、地球環境を大切にするーの5章に分けて、20人の歩みを述べている。ガンジー、キング牧師、マザー・テレサら名前を知ってても生い立ちから歴史に残る行動を起こすまでの苦難や挫折は知らない。それぞれの真摯な生きざまを知ると、背筋が伸びる。

初めて知った、イスラエルとパレスチナの間の平和に尽くしたブルーノ・フッサール神父。エルサレムとテルアビブの間の丘にある「平和のオアシス」(ネべ・シャローム/ワハト・アッサラーム)という村には「平和学校」があり、ユダヤ人とアラブ人が一緒になって紛争解決の方法を学んでいるという。動物や環境を守る活動も平和の一環として取り上げているのがミソ。レイチェル・カーソンの著作もあらためて読んでみようと思った。

平和をつくった世界の20人 (岩波ジュニア新書 641) - ケン・ベラー&ヘザー・チェイス, 作間 和子, 淺川 和也, 岩政 伸治, 平塚 博子
平和をつくった世界の20人 (岩波ジュニア新書 641) - ケン・ベラー&ヘザー・チェイス, 作間 和子, 淺川 和也, 岩政 伸治, 平塚 博子

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