動物園の飼育係は、担当の動物にとってよき調理人でなければならない。生存を維持することは、すなわち食を安定させること。シンプルなことだが、難しいことだ。収集、飼育、展示という動物園の役割も、アニマルウェルフェアという考え方が注目される昨今、変わりつつあるという。
ウェルフェアは「福祉」の意味だが、アニマルウェルフェアは「動物の幸せ」と訳すべきだという。動物の幸せについての科学と倫理。飼育係が今取り組むのは、環境エンリッチメントで、飼育している動物の環境に対し、追加あるいは変更を加えて野生での自然な行動を引き起こ、それが動物福祉につながるという考え方だという。昨今は野生のイノシシやシカ、サル、クマなどが人里に降りて来て、騒動を起こす頻度が増えている。同じ動物である人間だけの都合で自然を破壊する行為はそろそろ見直すべきではないのか。空前のペットブームでの無責任な放置も、多くの人が心を痛めていると思う。動物園の話は人間社会の問題と結びついている。

ルポ 動物園 (ちくま新書 1695) - 佐々木 央
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