歌舞伎役者の世界を描いた傑作、吉田修一の「国宝」を読んだ。立女形として芸を究めていく苦難の道を、出自の異なる二人の少年の出会いと成長、成功とどん底が繰り返す役者人生を赤裸々に描いた芸道小説。大阪弁の妙と弁士による物語の展開が秀逸で一気に読了した。
東京時代に立役者の派手な荒事は結構、劇場で見た方だが、女形の舞踊や名場面は意外と抜けていた。三代目半二郎が琴と三味線と琵琶を奏でる「阿古屋」は、ぜひ一度舞台で見てみたい演目になった。それにしても1カ月近い興行が終われば、5日ほど稽古して次の舞台に入る役者生活の何と厳しいことか。それでも芸のため精進することが梨園に生まれた者の宿命という。華やかな舞台の先にある大きな夢と家庭のささやかな幸せは果たして両立するものなのか。
「堅気は小ずるく生き、堅気でない者(極道、やくざ者)は大ずるくしか生きられない」。堅気とそうでない者の違いの定義になるほどと頷く。
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