物語は当時のアカデミックな中世研究の成果をきちんと盛り込んで、そこから発想を広げている。単なる荒唐無稽なほら話にならないのは、そうした土台がしっかりしているからだろう。日本列島を移動しながら生業をする「漂泊の民」が徳川の統治政策で次第にカーストの中に組み込まれていく。それが現代に続く差別のルーツになっている事実。作品の中で折に触れて、日本社会にある根深い問題にも話が及ぶ。
とはいえ主人公の松永誠一郎の周りには、師匠の宮本武蔵、柳生一族に荒木又右衛門と、次々と歴史上の剣豪が出てきて、チャンバラの楽しさを満喫できる。週刊新潮に連載されていたため、花魁との濡れ場もたっぷり出てくる。巣ごもり読書にはおすすめだ。
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