遊女は、高い教養を持ち、香木を焚き染めとても良い香りを放った。和歌をつくり三味線を弾き、生花や抹茶の作法を知っていて、年中行事もしっかり行なっていたという。とはいえ、前借金のかたにいわば自由を奪われ(勝手に遊郭の外に出られず)、身請けされない限り、金を返すまで多くの男と夜を共にしなければならなかった。人権無視の公娼制度だ。
床上手は、遊女の大事な要素。井原西鶴「好色一代男」「諸艶大鑑」によると、「肌が麗しく暖かく、その最中は鼻息高く目は青みがかり、脇の下は汗ばみ、腰が畳を離れて宙に浮き、足の指はかがみ、それが決してわざとらしくない。たびたび声を上げながら、男が達しようとするところを9度も押さえつけ、どんな精力強靭な男でも乱れに乱れてしまう。その後で灯をともして見る美しさ、別れる時に「さらばや」と言うその落ち着いたやさしい声」が床上手の意味という。江戸文化の粋がつまった一冊。

遊廓と日本人 (講談社現代新書) - 田中優子