2024年12月30日

イラク水滸伝

高野秀行さんの「イラク水滸伝」を読む。植村直己冒険賞を受賞し、今年はドゥマゴ文学賞に選ばれたノンフィクション大作。これまでの作品名から無謀な冒険記かと思いきや、綿密な下調べと準備を経た探索旅という内容で、写真やイラストと併せてまさに大胆緻密な旅行記として楽しめた。

イラクといえば、フセイン独裁政権とクウェート侵攻、米国によるフセイン打倒が思い浮かぶ。その後、内戦が続き国内の治安は乱れ、とても外国人が足を踏み入れる国ではないというのが一般的認識だろう。それだけに南部の湿地帯が世界遺産に認定されたことなど知る由もなし。最古の国家シュメールからメソポタミア文明が起こったチグリス・ユーフラテス川流域のアフワール(巨大湿地帯)。葦が生い茂り迷路のような水路を古代の船タラーデで冒険しようという試みを記録したのが本書だ。

アウトローやマイノリティーが逃げ込む「梁山泊」アフワールを潰すため、運河を建設して水を断つなど、弾圧を続けたフセイン政権だが、地元の人は「どの宗教も宗派も同じように扱い、自分に刃向かう者だけを弾圧しただけ。だからセクト間の対立はなかった」という。米国の介入が今の混沌を生み出すことになった。皮肉な話だ。

以下、気になった話。

・湿地帯に住んだマンダ教の人々はグノーシス的な思想を完成させた。「この世界は間違った神によって創られた間違った世界だ」「正しい認識を持つエリートが大衆を救う」といった思想上の潮流だ。迷路や荒地のような所で育まれた思想なのかもしれない。

・フランスの文化人類学社レヴィ=ストロースが提唱した概念「ブリコラージュ」。有り合わせの材料で自分で物を作るとか、その場しのぎの仕事という意味で、現代文明の「エンジニアリング」と対照をなす。そのブリコラージュがアフワール周辺の人々の間には息づいている。タラーデ作りはその典型だった。

・ゲッサ・ブ・ゲッサは一夫多妻制の中の用語で、お互いの親族を嫁として取り替えっこすること。

イラク水滸伝
イラク水滸伝

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2024年12月16日

(生)林檎博24 景気の回復

椎名林檎のライブ「(生)林檎博24 景気の回復」に行く。会場は福岡マリンメッセ。アルバム「放生会(ほうじょうや)」の曲をメインにたっぷり2時間、RINGO節を堪能した。


アルバムは当代の女性アーチストとのコラボが売り。期待してた通り、新しい学校のリーダーズ、Daokoがゲストで出演、会場を盛り上げた。AIやのっちは映像で登場し、生身の林檎さんと熱いパフォーマンスを見せた。かと思えば、実の息子(小学生?)のお手紙で「曲はノリノリで作っているけれど、作詞の時は完璧な言葉を探そうと苦しんでいる」と母・林檎さんの創作生活の一端が紹介される場面も。


久しぶり2度目のライブ観覧だったが、今回もステージ上のスクリーンやレーザービームを駆使して、しっかり計算され尽くした演出。おしゃれでスタイリッシュな雰囲気が心地よかった。観客もどこかシャレオツな感じの老若男女が集まっていた。アルバムタイトルの放生会は、福岡・筥崎宮の「万物の生命をいつくしみ、殺生を戒め、秋の実りに感謝する」お祭り。というわけで、ライブもお祭り騒ぎの賑やかさ。頭っからスタンディングで一気にアンコールまで駆け抜けた。


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2024年12月08日

パイプオルガンコンサート

福岡女学院の「柿薗記念パイプオルガンコンサート〜待ち望むクリスマス」に行く。同校ギール記念講堂にある中部ドイツバロック様式のパイプオルガン。2段手鍵盤と足鍵盤、33ストップ(音列)を有し、8フィートの美しい音色のパイプを持つ。昔から重奏的なこの楽器の音色・響きが好きで、クリスマス前の季節にやっと地元での演奏を耳にする機会を得た。


演奏者は山口綾規(りょうき)さん。ポップスからクラシックに入った奏者で、米国のシアターオルガンのCDを出している。プログラムは、バッハの「目覚めよと呼ぶ声あり」から始まり、讃美歌を元にしたレイトンの「讃歌による6つの幻想曲」より第5番久しく待ちにし、バッハ「いざ来ませ、異教徒の救い主よ」「前奏曲とフーガ ハ長調」と続く。やはり、オルガンはバッハだと思いながら、穏やかで厳粛な気持ちを味わう。


後半はクリスマスを祝う選曲で、締めはサウンド・オブ・ミュージックのナンバー。オルガンの音質に影響するため、講堂内は空調を落としていたが、約1時間半の演奏会は温かい気持ちにさせてくれた。


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2024年12月05日

富士山

平野啓一郎さんの短編集「富士山」を読む。長ものは何冊か読んできたが、短編は初めて。5編それぞれに趣向が違い、こんな風にも書けるんだと、プロの作家の技量に感心した。


コロナの頃に書かれた作品は、その頃の自粛生活の息苦しさを否応なく思い出させた。社会全体が目に見えぬウイルスに怯え、身も心も閉じこもっていたっけ。


マッチングアプリや「健康不安シンドローム」みたいな気持ち、ハラスメントに現れるやり場のないストレス。現代の閉塞社会の様々な違和感を作品に仕立てていた。巻末には平野さんが主宰するオンライン文学サークル「文学の森」の案内も出ていて、相変わらずいろんな仕掛けを考えているなと感心した。



富士山 (コルク)

富士山 (コルク)



  • 作者: 平野啓一郎

  • 出版社/メーカー: コルク

  • 発売日: 2024/10/17

  • メディア: Kindle版





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