2024年11月26日

ららら星のかなた

先日亡くなった谷川俊太郎さんと伊藤比呂美さんの対談集「ららら星のかなた」を読む。人気の詩人同士のぶっちゃけトーク。伊藤さんがズケズケと直球勝負でアタックし、谷川さんが苦笑しながら答えている情景が浮かぶよう。面白いおしゃべりだった。


谷川さんは自ら「傲慢」と言って憚らない。離婚した佐野洋子さんから「あんたは女が一人いれば、友達は要らない人だね」と喝破され、その通りだと思った。そもそも他人のことに興味がない。親しい詩人仲間はいたが、年取った今はもう誰もいない。寂しいというより、つまらないと吐露する。我が身に置き換えてみても、なるほどと思う。


詩作については、人が読んで面白いかどうかを一生懸命考える。美的な詩的な感覚は捨てた方が良いという。アトムの作詞からドラマの脚本、絵本など、稼ぐために頼まれたら何でも引き受けた。生き方として、コピーライターの糸井重里さんと被るようなところがある。父親は哲学者の谷川徹三さんで、子供のころどんな教育を受けたかも興味深かった。



対談集-ららら星のかなた (単行本)

対談集-ららら星のかなた (単行本)



  • 出版社/メーカー: 中央公論新社

  • 発売日: 2024/09/19

  • メディア: 単行本





posted by あぶりん at 18:33| Comment(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月19日

ヴァラエティ

奥田英朗の短編を集めた講談社文庫「ヴァラエティ」を読了。本人によると、ちょっとした違和感をもとに創作するそうで、まさに短編の名手の本領発揮といった掌編が並ぶ。


イッセー尾形、山田太一との対談も盛り込まれていて、創作の秘密的なことも開陳されている。それによると、奥田さんは長編でもプロットを立てられないのだとか。創作の基本は違和感で、それをどう表現しようかと考える。対談相手の山田さんは、「テーマを描くな、ディテールを描け」と言われ、短編の名手と言われたリング・ラードナーは「物語の書き出しはテーマから離れ頭に浮かんだ会話から始めろ、筋ともテーマとも関係ない会話が最初にあることで全体が深まりふくらむ」という。


彼はまた、「何か言いたいやつは、どこか具合が悪いんだ」という言葉も残していて、山田さんはそれがものを書く前提だと思うと吐露している。(なるほど)



ヴァラエティ (講談社文庫)

ヴァラエティ (講談社文庫)



  • 作者: 奥田英朗

  • 出版社/メーカー: 講談社

  • 発売日: 2019/09/13

  • メディア: Kindle版





posted by あぶりん at 18:28| Comment(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月17日

江口寿史展 in Asia

福岡アジア美術館の「江口寿史展」を見にいく。ポップでおしゃれで、たまにセクシーな女の子たちが会場いっぱいに飾られていた。少年ジャンプの連載マンガで出会って以来、きれいな線のキャラクターたちに魅せられた。随分前に出たイラスト集「KING OF POP」を奮発して買った。展覧会では、それに収録されていて見覚えのある作品もあったが、1000点を超す作品群に圧倒された。いつものように一番印象的な1点を見つけようと思ったが、結局、断念した。記念に何が入っているか分からないシークレットのクリアイラストカードを300円で買う。


IMG_2093.jpeg


IMG_2094.jpeg


IMG_2095.jpeg


IMG_2096.jpeg


IMG_2097.jpeg


IMG_2098.jpeg

posted by あぶりん at 10:08| Comment(0) | アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月16日

狡智の文化史 人はなぜ騙すのか

人間の知性の働きの一つである「人を騙す」ことについて考察した「狡智の文化史」(山本幸司著、岩波現代文庫)を読む。古今東西の史書や神話、民話などを実例に、騙すことは人間の本性であると指摘する。振り込め詐欺やSNSを使った投資詐欺、ホワイト案件と称した闇バイトが流行する昨今、騙す心理の深層を考えた。


武士道に代表されるような「やまと心」「やまと魂」はそもそも、「漢心」に対する日本の文化的な心について語る言葉であり、折口信夫によると「紳士として自由に生活する魂、たくさんの女性と交渉して、複雑な社会生活をしながら、それを見事に捌いてゆく生活の精神」だという。戦国時代の武士は、戦さに勝つために相手を騙したり裏切ったりするのは常識であり、味方同士でも相手を出し抜いて出世するため、権謀術数の限りを尽くした。そうした才覚を備えることこそが立派な武士であったという。後世、新渡戸稲造によって海外に紹介された「武士道」あたりから、現代に続く武士道や大和魂の解釈が定着していったらしい。


「馬喰八十八(やそはち)」など語り継がれてきた「騙す民話」の数々は現代の倫理観からは信じられないような残酷さや卑劣さに溢れているが、貧しい者が富者を騙すというパターンが主流で、人々はそうした「狡智」を生きる知恵として許容してきたのだ。しかし、近代日本の国家は「正直教育」を導入した。嘘つきは泥棒の始まりと教え、小民の小さな悪は決して許さず、一方で大物のでっかい悪はお目こぼしする流れが出来上がっていく。小さな悪の習慣を積んでいない者には、大きな悪のからくりは見破れない。監視の目が届かぬ世に巨悪が蔓延る現代を思うと、ゾッとする。



狡智の文化史 人はなぜ騙すのか (岩波現代文庫 文芸344)

狡智の文化史 人はなぜ騙すのか (岩波現代文庫 文芸344)



  • 作者: 山本 幸司

  • 出版社/メーカー: 岩波書店

  • 発売日: 2022/06/16

  • メディア: 文庫





posted by あぶりん at 10:17| Comment(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月10日

鏑木清方随筆集

日本画家でエッセイストとしても知られる鏑木清方の随筆集(岩波文庫)を読む。「東京の四季」というサブタイトルがついていて、膨大な随筆を春夏秋冬に分けてまとめている。今の時期に合わせて、秋から順にページを繰ったが、昭和初期から戦後20年代まで、画家が住んだ東京の下町の風情が絵のように描かれていて、懐かしく穏やかな気持ちになった。


木挽町や築地、本郷などを転々とした。まだ、江戸から明治の遺風があり、建物が少なく海や山がそばにある東京の空気が伝わる。画家がよく題材にした夏の風物。朝顔、団扇、浴衣への自らの好み、こだわりが細かく記される。銀座もカフェーにまじって芸妓さんが行き来する店があったり、現代の喧騒が嘘のような街並みが描かれる。


美人画で知られる人だけに、女性の美についても記述。日本画の美人画について、人体そのものにのみ画因を置くことは少なく、自然から受ける魅惑が強いという。人体の筋や肉の美しさだけを抽出する彫刻や油絵との違いをそこに見出す。初夏の雨の風情に画心を誘われたとすれば、女も風情の一つに過ぎないという。口絵にある「築地明石町」の美人画を眺めながら、風情という言葉を噛み締めた。





posted by あぶりん at 18:46| Comment(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする