2024年10月29日

すごい神話

現代人のための神話学53講というサブタイトルがある「すごい神話」(沖田瑞穂著、新潮選書)を読む。現代のアニメやゲームのネタとしても生きているという内容に惹かれて手に取る。現代でもなお古代の神が生き続けているのはインドと日本くらいらしいと知り、その特殊な風土を思う。


著者は主にインド神話を研究しているので当然、インドのヴィシュヌ神やシヴァ神といった神様や、マハーバーラタ、ラーマーナヤという叙事詩が詳しく出てくる。折々に神話の一部が紹介されているのだが、舌を噛みそうな名前の神様が多く、それを読むだけでちょっと疲れた。


とはいえ神が起こした戦争は、増えすぎる人類を間引きするため=人口を減らすためという設定が多いのには驚いた。人類は大地の重荷。環境問題をはじめ人類が引き起こしてきた地球規模の問題は古代から予測されていたらしい。神話では、言葉の力が宿る場として「名前」が強調されていて、昔から名前を持つ者の本質を表しているという。「神話は過去の遺物ではない。人の心理は神話を再生産する。変形されたり反転したり、新しい要素を付け加えられたりして、神話は連綿と語られる。今も昔も、人は神話を生き、神話に生かされている。人はそういう存在なのかもしれない」(「おわりに」より)



すごい神話―現代人のための神話学53講―(新潮選書)

すごい神話―現代人のための神話学53講―(新潮選書)



  • 作者: 沖田瑞穂

  • 出版社/メーカー: 新潮社

  • 発売日: 2022/03/24

  • メディア: Kindle版





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2024年10月26日

来てけつかるべき新世界

ヨーロッパ企画の第43回公演「来てけつかるべき新世界」をキャナルシティ劇場でみた。通天閣を見上げる大阪・新世界を舞台にコテコテの大阪弁が飛び交う喜劇。よしもと新喜劇のノリで来るべき未来をピリッと風刺する、オモロい舞台だった。


ドローンやロボット、AI、シンギュラリティ、VRといった5つのテーマで5幕。串カツ屋の娘・マナツ(藤谷理子)を主人公・語り手に、新世界に新たなテクノロジーが入って、昼から屯するおっちゃんたちを翻弄、てんやわんやの大騒ぎが展開する。


出演者は関西では有名なのだろうが、知っていたのは板尾創路くらい。それでも炊飯器と組んだ漫才はなかなか傑作だったし、板尾のお父ちゃんの鋭いツッコミ、気の利いたボケにも笑った。テクノロジーのニューワールド@新世界。こんな路地裏にまで来やがったAI時代。タイトルに込めた作・演出(上田誠)の意図は笑ってばかりはいられない未来なのかもしれない。


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2024年10月19日

インターネット文明

日本のインターネットの父・村井純さんの「インターネット文明」(岩波新書)を読む。インターネットが生まれて50年、ワールドワイドWEBができて30年が経ち、全世界で利用者は50億人を超える。ネット以前と以後は、まるで別世界。ビジネスや医療、マンガから安全保障まで、まさに「インターネット文明」と言っていいと指摘する。


コロナ禍があってネットのありがたみを痛感した世界。自粛生活を機にオンライン会議による在宅勤務やネット通販、デリバリーが社会の中に定着した。我が国では光ファイバーが一般家庭にまで整備されていて、大いにネット生活を支えたが、こうした状況は世界的にはかなり特殊なものだという。


匿名の集合知であるウイキペディアや、トラストレスを本質とする暗号資産・ビットコインの話など、技術の歴史に触れながら、日本人研究者らの果たした大きな役割を紹介。「誰ひとり置いてけぼりを作らないデジタル社会」を掲げ、デジタル庁創設に尽力した話も興味深かった。憲法21条2項「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」という取り決めは世界的にはあまりないということも知った。民間と公共を行ったり来たりする米国の働き方は、「リボルビングドア(回転ドア)」といって独特のものだが、政府関係で仕事をして民間に戻ると経験値が上がり給料も跳ね上がるらしい。



インターネット文明 (岩波新書)

インターネット文明 (岩波新書)



  • 作者: 村井 純

  • 出版社/メーカー: 岩波書店

  • 発売日: 2024/09/25

  • メディア: Kindle版





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2024年10月14日

知的な痴的な教養講座

本棚の整理をしていて目に入った開高健の文庫本「知的な痴的な教養講座」を読む。週刊プレイボーイの連載をまとめた一冊。戦場を駆け巡り、釣りで世界を股にかけ、未開の地の食に舌鼓を打った行動派の作家。縦横無尽の語り口に昭和の香りを懐かしんだ。


サントリーのコピーライターをしていた開高さん。酒にはもちろん博識で、ワインや日本酒の話には蘊蓄がいっぱい。「一本のワインには二人の女が入っている。一人は栓を開けたばかりの処女、もう一人は、それが熟女になった姿である」。ジェンダーだ、セクハラだと厳しい昨今では、たぶんクレームがつく文章もある。でも、そこにこそ人生の真実があるのだと思ったりする。


以下、心に残った一節。

・カンボジア国境で見た曳光弾。ヘミングウエーは「人が死ぬことがなければ、戦争は最高のページェントだ」と言った。

・スコッチの中でもマッカランは宝燈を守り、シェリー酒の樽で寝かせる作り方を頑なに続けている。

・毎日、毎週、読みたくなるようなコラムがある。それが新聞ではないか。新聞の復権はコラムにかかっている。

・ルーマニアの諺「月並みこそ黄金」。

・フランソワ・ラブレーは「三つの真実に勝る、一つのきれいな嘘を」と言った。凡庸な真実より、きれいな嘘の方が人生にはしばしば必要だ。



知的な痴的な教養講座 (集英社文庫)

知的な痴的な教養講座 (集英社文庫)



  • 作者: 開高 健

  • 出版社/メーカー: 集英社

  • 発売日: 1992/05/20

  • メディア: 文庫








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2024年10月10日

文学は予言する

翻訳家・鴻巣友季子の「文学は予言する」(新潮選書)を読む。「未来は小説に書かれていた」という惹句につられて手に取ったが、いわゆる世界文学の読書案内といった内容で、改めて「まだ読んでない本、(世の中を知るため)読むべき本は多いなあ」と実感した。


ディストピア、ウーマンフッド、他者の3章立て。「未来小説とは未来のことを書いたものではない。歴史小説とは過去のことを書いたものではない。どちらも、今ここにあるもの、ありながらよく見えてないものを、時空間や枠組みをずらすことで、よく見えるように描き出した「現在小説」なのである」。最初の方に出てくる、このくだりに「なるほど」と頷く。であれば、作品が書かれた後、何十年も経って読むと、ピンとこない話もあるだろう。特に外国の作品となると、その時代を知っていなければ文学作品が何を言おうとしているのか、本当のところは分からないわけだ。


ディストピア小説の代表として何度も出てくるアトウッドの「侍女の物語」は米ドラマとして評判になったようで、一度見てみたい。日本の作家では、多和田葉子、小川洋子、村田沙耶香が多く取り上げらていて、結構読んだ本もあった。そろそろノーべル文学賞の発表時期、今年は日本人受賞はどうだろう。


・人を能力と功績でランク付けする「メリトクラシー」の基本思想がディストピア小説にはある。近年は現実社会でも能力、成果、功績、学歴主義の問題点が問われるようになった

・メリトクラシーに則ったアメリカン・ドリームは「多様性」と「変化」への対応力をバネとしていたのに、グローバリゼーションとハイテク化でこれらが逆作用して、富裕層の固定化を促してしまった

・インテリの人は世界を飛び回っているが、実はどこへ行っても自分と似たような人たちとしか会っていない。地域を超える「横の旅行」ではなく、同じ通りの住人がどんな人かをもっと深く知る「縦の旅行」が必要なのではないか(カズオ・イシグロ)

・多くの大芸術家の妻たちは、ミューズとして、ファム・ファタール(運命の女)として崇めたてられ、搾取されてきた

・英米の出版界では、ヴァースノベル(詩小説)という表現スタイルが一つの分野を作っている



文学は予言する(新潮選書)

文学は予言する(新潮選書)



  • 作者: 鴻巣友季子

  • 出版社/メーカー: 新潮社

  • 発売日: 2022/12/21

  • メディア: Kindle版












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