2024年09月28日

蕎麦屋のしきたり

元「有楽町更科」の四代目・藤村和夫さんの「蕎麦屋のしきたり」を読む。最近は昼はうどんではなくて蕎麦を食べることが多く、また蕎麦屋での一杯も美味しい季節。「うまいよなあ」と呟きながらページを繰った。


蕎麦の歴史やさまざまな蘊蓄が語られている。まあ、要は美味ければ良いのだが。いつも気になっていて、なかなか頼まないのが蕎麦屋のカレー。カレー南蛮には「蕎麦屋のカレー粉」があるそうで、カレーの素を溶いておき、蕎麦じるが煮立ったら、それをひと匙入れればカレー南蛮の出来上がりなんだとか。カレー南蛮が売りの、どの店で食べても味が変わらないのはそのせいという。


薮、更科、砂場。老舗の蕎麦屋には東京時代にチラといったが、いまだに思い出すのは霞ヶ関の官庁にある蕎麦屋。たぬき蕎麦を嵐のようにかき込む先輩に唖然とした思い出。品がない食べ方で、味もクソもないだろうと、なんか寂しい気持ちになったのを覚えている(これは余談)。



蕎麦屋のしきたり (生活人新書)

蕎麦屋のしきたり (生活人新書)



  • 作者: 藤村 和夫

  • 出版社/メーカー: NHK出版

  • 発売日: 2001/11/09

  • メディア: 新書





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2024年09月25日

百年の散歩

多和田葉子の「百年の散歩」を読む。1万近い通り(ストリート)があるベルリンの街を歩き、出会った人を観察し歴史に思いを馳せる。ドイツ語や言葉遊びも交えた、まるでエッセイのような不思議な小説だった。


カント、マルクス、ルターといったドイツゆかりの人たちの名前を冠した通り。ベルリンには残念ながら行ったことはないが、戦災を経験し東西冷戦を象徴する街が抱える記憶が作家の想像の翼を広げていく。作者自らと思しき語り手と、待ち合わせる「あの人」。読む人の想像力を掻き立てる、巧みな文章だった。


通りの名前になっていても知らない人も幾人かいて、レネー・シンテニスもその一人。女性の彫刻家で動物をモチーフにした彫刻作品を多く残した。ベルリン映画祭の銀熊賞のクマ(クマはベルリンの象徴)も彼女の作品と知った。



百年の散歩 (新潮文庫 た 106-2)

百年の散歩 (新潮文庫 た 106-2)



  • 作者: 多和田 葉子

  • 出版社/メーカー: 新潮社

  • 発売日: 2019/12/25

  • メディア: 文庫






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2024年09月21日

ジョーカー

バットマンに出てくる悪役ジョーカーの物語。心優しきコメディアンがなぜ殺人鬼になったのか。米の格差社会に充満する不平不満、行き場のない怒りを掬い取った作品としてヒットしたらしいが、差別や暴力など、ダークな面の描き方がストレートすぎて、そんなに感情移入できなかった。


近々、続編が公開され、ガガ様が出るので観てみようかと思い、Amazonで前作の予習をした。主演ホアキン・フェニックスの演技は確かになかなかだったが、ゴッサムシティを舞台にしたのだから、もっとアメコミのテイストがあっても良かったような。


ピエロの仮面をつけた群衆が市街を焼き討ちするクライマックスの場面は、分断された今の米国では決して絵空事ではない。トランプ支持者の議会襲撃事件を思い出す。トッド・フィリップス監督。



ジョーカー [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

  • 発売日: 2020/08/05

  • メディア: Blu-ray







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2024年09月18日

精神の考古学

中沢新一の「精神の考古学」を読了した。チベット仏教の真髄を求めて、秘境で修行した20代の頃からの冒険記。チベット語の難しい言葉や哲学が出てきて、分からない箇所もあったが、精神のアフリカ的段階を極めようとする、その行動力と意志の固さに脱帽した。


縄文聖地巡礼やカイエ・ソバージュなど思想家・人類学者としての著作を愛読してきたが、中沢さんがこうした鍛錬の場で過酷な修行をしたとは知らなかった。中国共産党政権が弾圧を続けるチベットは、政治的な動きをたまにニュースで知るくらいの知識しかなかった。古代から秘密裡に伝えられてきた精神の教え「ゾクチェン」。ネパールでケツン先生と出会い、その修練の過程を具に記録した。


・資本主義社会では、死の領域につながるパサージュが閉鎖されていて、生み出された夥しい富が循環せず全体に豊穣をもたらさないシステムを作ってしまっている。チベットの祭りで化粧した牛や犬は優しさに満ちた表情で人間たちに、社会を生き延びるための「メメント・モリ(死を思え)」の教訓を教えようとしていた。

・ガイジャトラの祭り(日本のお盆のようなもの)は、生者だけがこの世界の住人ではないことを自覚させる。生の世界は広大な死の世界に包まれおり、私たちは短い間だけ死の領域を出て、こちらの世界を楽しんだ後、再び死の領域に戻っていく存在であるという、人類の古くからある認識を思い出させる。

・ムンツァム(暗黒瞑想)の体験をすると、人の心のとてつもなく大きな慈悲心が湧き上がる。有情に対する共感と同情が込み上げてくる。人類が皆こういう体験をすれば世の中はもう少しよくなる。


その時々に書かれた記録や思索はネパールの空気のように澄んでいて、活字を通して青空や流れる水を体験した気分になった。秘儀の体験を言葉にする困難さもあり、内容はあまり理解できなかったが、時を置いてもう一度読んでみようかと思った。



精神の考古学

精神の考古学



  • 作者: 中沢新一

  • 出版社/メーカー: 新潮社

  • 発売日: 2024/02/15

  • メディア: Kindle版








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2024年09月16日

一升枡の度量

池波正太郎のエッセイを集めた文庫本「一升枡の度量」(ハルキ文庫)を読む。いろんな雑誌などに書いたものをまとめたものなので、時代ものから身辺雑記のような話まであった。鬼平のファンだったので手に取ったのだが、池波氏が新国劇の座付き作家のようなことをしていたのは知らなかった。


東京下町生まれで、大学などへは行かず最初は丁稚奉公のようなことをしていた。裕福ではなく貧しかったが、食うに困ることはない。隣近所で助け合う江戸の街の暮らしぶりが懐かしく描かれていたりした。


大の酒飲みで知られる作家。仕事が行き詰まって飲むことはしない。酒飲むのは楽しい気分の時だけ。「毎日、晩酌しているのなら、毎日楽しいんですか」と問われて、「そうです。一日中つまらなかったのは1年に2日か3日です」と答えたという。自分もそうありたいと思った。



一升桝の度量

一升桝の度量



  • 作者: 池波 正太郎

  • 出版社/メーカー: 幻戯書房

  • 発売日: 2011/05/01

  • メディア: 単行本





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