年納めに隆慶一郎さんの傑作時代小説を読む。「吉原御免状」の続編。10年以上前に読んですっかり忘れていたので、改めて一から読み続編を続けて読んだ。道々の輩である傀儡(くぐつ)や吉原成立の秘話、徳川家康の影武者説など、まさに縦横無尽に語りが展開していく。時代劇エンタメを堪能した。
物語は当時のアカデミックな中世研究の成果をきちんと盛り込んで、そこから発想を広げている。単なる荒唐無稽なほら話にならないのは、そうした土台がしっかりしているからだろう。日本列島を移動しながら生業をする「漂泊の民」が徳川の統治政策で次第にカーストの中に組み込まれていく。それが現代に続く差別のルーツになっている事実。作品の中で折に触れて、日本社会にある根深い問題にも話が及ぶ。
とはいえ主人公の松永誠一郎の周りには、師匠の宮本武蔵、柳生一族に荒木又右衛門と、次々と歴史上の剣豪が出てきて、チャンバラの楽しさを満喫できる。週刊新潮に連載されていたため、花魁との濡れ場もたっぷり出てくる。巣ごもり読書にはおすすめだ。
2021年12月30日
2021年12月12日
あちらにいる鬼
先日亡くなった作家、瀬戸内寂聴さんと、不倫相手の井上光晴さん夫妻との関係をモデルに娘の井上荒野さんが書いた小説。いわゆる奔放な女だった瀬戸内さんと無頼の文学者井上さんの関係は、性愛を超えて最後は同志のような付き合いだったのか。井上さんの妻の視点からも書かれていて、何か男女の仲を覗き見するような隠微な興味も手伝って面白く読んだ。
実のところ寂聴さん、井上さんの小説は読んだことがない。出家してからもメディアによく露出した寂聴さんだが、唯一多様な人々の交友録「奇縁まんだら」を読んだくらいか。次々と女をつくっていたらしい井上さんの作品は手にしたことがない。その分先入観なしに今回は読めたけれど。
愛と書くことに憑かれた男と女を描いたと裏表紙の紹介にある。確かに憑かれたようにのめり込む生き方がブンガクに昇華するということはあるのだろう。世間体や常識には囚われない生き方には、ある種の羨望も入り混じった驚きがある。自由な生き方を貫くのは決して容易くはないと思った。
実のところ寂聴さん、井上さんの小説は読んだことがない。出家してからもメディアによく露出した寂聴さんだが、唯一多様な人々の交友録「奇縁まんだら」を読んだくらいか。次々と女をつくっていたらしい井上さんの作品は手にしたことがない。その分先入観なしに今回は読めたけれど。
愛と書くことに憑かれた男と女を描いたと裏表紙の紹介にある。確かに憑かれたようにのめり込む生き方がブンガクに昇華するということはあるのだろう。世間体や常識には囚われない生き方には、ある種の羨望も入り混じった驚きがある。自由な生き方を貫くのは決して容易くはないと思った。
2021年12月04日
ダ・ヴィンチは誰に微笑む
ダ・ヴィンチ最後の傑作といわれる絵画「サルバトール・ムンディ」、通称「男性版モナ・リザ」をめぐるノンフィクション。13万円でニューヨークの画商が手に入れた1枚の絵がオークションで510億円で落札される。現代アート市場の実態とからくり、その背景を追っている。
「ダ・ヴィンチが描いた救世主」という、絵画のテーマ自体がキリスト教世界の人々にとって特別な存在らしい。ディカプリオはじめ公開された絵を見た人たちが涙を流す様を見て、そう思った。モナ・リザを見て日本人が涙を流すだろうか。これがあの有名なモナ・リザかと、ルーブルで見た時に感動した思い出はあるけれど、絵自体に感動したというよりルーブルに今いる自分に感動していたような気がする。文化の違いを思う。アントワーヌ・ヴィトキーヌ監督。

キノシネマ天神で見た。初めて訪れたが、新たにこういうミニシアターができたのは大歓迎。ネットでいろいろな作品が手軽に見れる時代だが、やはりスクリーンが一番だと、改めて思った。
「ダ・ヴィンチが描いた救世主」という、絵画のテーマ自体がキリスト教世界の人々にとって特別な存在らしい。ディカプリオはじめ公開された絵を見た人たちが涙を流す様を見て、そう思った。モナ・リザを見て日本人が涙を流すだろうか。これがあの有名なモナ・リザかと、ルーブルで見た時に感動した思い出はあるけれど、絵自体に感動したというよりルーブルに今いる自分に感動していたような気がする。文化の違いを思う。アントワーヌ・ヴィトキーヌ監督。
キノシネマ天神で見た。初めて訪れたが、新たにこういうミニシアターができたのは大歓迎。ネットでいろいろな作品が手軽に見れる時代だが、やはりスクリーンが一番だと、改めて思った。

レオナルド・ダ・ヴィンチ ミラノ宮廷のエンターテイナー (集英社新書)
- 作者: 斎藤泰弘
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2020/01/17
- メディア: Kindle版