長崎・諫早出身の芥川賞作家、野呂邦暢の小説を初めて読む。「文庫になることが奇跡の1冊」という腰巻の文句に魅かれて手に取る。昭和の作品だが、なるほどこういう書き方があるのか、結末を付けなくてもちゃんと小説になるんだと、感心した。
表題は久留米出身の丸山豊の詩集のタイトル。古本屋の若主人を主人公にしたストーリーでは、棚に並ぶ古今の名著の蘊蓄もあり、本好きにはなかなか楽しい。火曜サスペンスのような場面も出てきて、ミステリー的な面白さもあった。
近年は野呂邦暢再評価の動きが出版界ではあるらしい。いずれ長編の作品も読んでみようかと思う。
2021年10月30日
2021年10月23日
日本の現代演劇
扇田昭彦の岩波新書「日本の現代演劇」を読了した。以前拾い読みして本棚へ。東京時代に週末のたびに舞台を見に出かけ、いろんな系統の芝居を見た。唐十郎、鈴木忠志、別役実、蜷川幸雄、寺山修司、つかこうへい、山﨑哲、井上ひさし、平田オリザ、鴻上尚史。彼らが作・演出した舞台を思い浮かべながらの読書は楽しかった。
新劇を批判して立ち上がった、前衛、アングラの現代演劇。舞台・客席にも学生運動が盛んだった時代の空気が反映された。ただ表現の仕方、進む方向性はそれぞれ。演劇記者として共に走りながら胎動を見つめてきた扇田氏の解説を読みながら、事件と言ってもいい出来事に遭遇できた、その経験を羨ましく思った。
今テレビや映画、演劇で活躍する中堅・ベテランにアングラ出身の役者が結構いて驚く。容貌魁偉な面構えの役者はだいたい間違いなくテント芝居のスターだったりする。
新劇を批判して立ち上がった、前衛、アングラの現代演劇。舞台・客席にも学生運動が盛んだった時代の空気が反映された。ただ表現の仕方、進む方向性はそれぞれ。演劇記者として共に走りながら胎動を見つめてきた扇田氏の解説を読みながら、事件と言ってもいい出来事に遭遇できた、その経験を羨ましく思った。
今テレビや映画、演劇で活躍する中堅・ベテランにアングラ出身の役者が結構いて驚く。容貌魁偉な面構えの役者はだいたい間違いなくテント芝居のスターだったりする。
2021年10月17日
ムサシ
井上ひさし作、蜷川幸雄オリジナル演出の「ムサシ」を北九州市芸術劇場で見た。蜷川の7周忌追善公演。あれからもう7年か。蜷川ファンとして、喜劇も見ておかねばと小倉まで足を伸ばした。

リバーウオークに来たのは初めて。奇抜な建物で面白いが、雨が振り込んだりするし、冬よりは夏向けの建築物かもしれない。劇場は6階。コロナも収まり客席はほぼ満員。季節もいいしみんな少しは羽を伸ばしてもいいよね、という感じなのかも。当方も観劇は1年8カ月ぶりで、まさに感激である。

吉川英治「宮本武蔵」を元にしたとはいえ、海外で「禅コメディ」と呼ばれ好評を博したという。お寺で武蔵(藤原竜也)と小次郎(溝端順平)が果たし合いまでの時間を共に過ごすという設定で、住職や柳生の頭領や地元の娘らが絡む。吉田鋼太郎、白石加代子、鈴木杏といった芸達者が揃う。随所で笑いをとりながら、ゾクっとするどんでん返しが待っていた。いやあ、やっぱり生の舞台はいいよなあ。蜷川さんの遺影と一緒に並んだ出演陣のカーテンコールに客席はステンディングオベーションで応えた。うるっと来ました。
リバーウオークに来たのは初めて。奇抜な建物で面白いが、雨が振り込んだりするし、冬よりは夏向けの建築物かもしれない。劇場は6階。コロナも収まり客席はほぼ満員。季節もいいしみんな少しは羽を伸ばしてもいいよね、という感じなのかも。当方も観劇は1年8カ月ぶりで、まさに感激である。
吉川英治「宮本武蔵」を元にしたとはいえ、海外で「禅コメディ」と呼ばれ好評を博したという。お寺で武蔵(藤原竜也)と小次郎(溝端順平)が果たし合いまでの時間を共に過ごすという設定で、住職や柳生の頭領や地元の娘らが絡む。吉田鋼太郎、白石加代子、鈴木杏といった芸達者が揃う。随所で笑いをとりながら、ゾクっとするどんでん返しが待っていた。いやあ、やっぱり生の舞台はいいよなあ。蜷川さんの遺影と一緒に並んだ出演陣のカーテンコールに客席はステンディングオベーションで応えた。うるっと来ました。
2021年10月03日
つかこうへい正伝
つかこうへい正伝を読了する。1968〜82年、つかが慶應大に入り劇団暫、つかこうへい事務所を立ち上げ解散するまでの記録。つかの下で薫陶を受けた長谷川康夫による青春記でもある。新たな演劇界のスターとして颯爽と世に出て、作品が映画化され、直木賞をとり、時代の寵児となる一部始終。舞台を作り上げる熱気が伝わってくる一冊だった。
VAN99ホールや紀伊國屋ホールで大好評を博しブームとなった、当時の舞台は残念ながら知らないが、つかの作品には何度か触れる機会があった。「郵便屋さんちょっと」や「熱海殺人事件」「飛龍伝」。何年か前に東京で見た舞台は、機関銃のような長台詞と挿入歌が印象に残る。演技する俳優に対し、つかがその場でセリフを足していく「口立て」という演出法で、芝居の世界が広がっていく。まず台本があるのではなく、公演中にも日々、新たなセリフやアイデアが加えられたと知り、そんな作劇方があるのかと感心した。俳優たちはさぞ大変だったろうと思うとともに、芝居の醍醐味というのもこんなところにあるのかもしれないと思った。
つかは「けれん」にこだわった芝居づくりをしたという。唐十郎や寺山修司の劇はまさに「けれん」そのものだが、彼らのようにどろどろとした情念が流れている感じではなく、つかの場合はもっとお洒落で軽いものだったと長谷川は書いている。つかが在日であることにも随所で触れているが、作家名が「いつか公平」をもじったものとの説があったと初めて知った。それにしても風間杜夫や平田満、根岸季衣、柄本明、石丸謙二郎、シティボーイズ、加藤健一、萩原流行、岡本麗ら、多くの俳優がつかの舞台から巣立った。今の演劇界の見取り図を理解するのにも役立った。
VAN99ホールや紀伊國屋ホールで大好評を博しブームとなった、当時の舞台は残念ながら知らないが、つかの作品には何度か触れる機会があった。「郵便屋さんちょっと」や「熱海殺人事件」「飛龍伝」。何年か前に東京で見た舞台は、機関銃のような長台詞と挿入歌が印象に残る。演技する俳優に対し、つかがその場でセリフを足していく「口立て」という演出法で、芝居の世界が広がっていく。まず台本があるのではなく、公演中にも日々、新たなセリフやアイデアが加えられたと知り、そんな作劇方があるのかと感心した。俳優たちはさぞ大変だったろうと思うとともに、芝居の醍醐味というのもこんなところにあるのかもしれないと思った。
つかは「けれん」にこだわった芝居づくりをしたという。唐十郎や寺山修司の劇はまさに「けれん」そのものだが、彼らのようにどろどろとした情念が流れている感じではなく、つかの場合はもっとお洒落で軽いものだったと長谷川は書いている。つかが在日であることにも随所で触れているが、作家名が「いつか公平」をもじったものとの説があったと初めて知った。それにしても風間杜夫や平田満、根岸季衣、柄本明、石丸謙二郎、シティボーイズ、加藤健一、萩原流行、岡本麗ら、多くの俳優がつかの舞台から巣立った。今の演劇界の見取り図を理解するのにも役立った。