昨春公開の作品をアマゾンプライムで見た。三島由紀夫の衝撃の死から50年、割腹自殺する前年、1969年5月13日に東大駒場の900号教室であった東大全共闘との討論会のドキュメンタリーだ。当時、石原裕次郎よりも、長嶋茂雄よりも人気のあったスター作家の三島。天賦の才という言葉がピッタリくる知性的な発言、しかも学生たちに分かるように優しく語る、その姿に見惚れた。
観念論的な討論から始まり、最後は天皇論に。学習院を首席で卒業した三島、十代で敗戦を迎え、価値観の大転換を経験した。天皇親政から人間天皇になった昭和天皇に三島は不満だったという。それが楯の会結成や市ヶ谷駐屯地での決起に繋がっていく。政治の季節だった60年代、大阪万博の前の年はこんなにも若く熱い感情が列島を覆っていたのかと感慨深かった。平野啓一郎や小熊英二、橋爪大二郎らのコメントが印象に残ったし、しっくりきた。
討論は互いの立場を理解しつつも、どちらかが説得されるということはなかった。ただ、反米愛国という一点では共通しているのではないかというのが、この作品を作った豊島圭介監督の結論。全共闘の若者たちは卒業し普通に社会人となり、今や後期高齢者だ。それぞれが学生運動の挫折にどんな折り合いをつけたのか。言葉と熱情がキーワードだった時代はもはや遠い。
2021年06月21日
2021年06月20日
朝倉の三連水車
梅雨の晴れ間。まだ涼しいうちに愛車に跨り、朝倉の三連水車を見に行った。ゆっくりしたペタリングでほぼ1時間半。こんなに近いのにこれまで行ったことがなかった。たまの休みといえば、街に出て映画見たり買い物に付き合ったり、ランチしたりが多かった。コロナで人の出の少ない方へという思考が行動に反映しているのかも。
豊富な水量の用水路で元気に回る水車。重連水車群として文化財に指定されていて、今年は田植えの始まる6月17日から稼働を始めた。農繁期の間、回り続ける。水の力を利用してきた農業。近くには筑後川の山田堰がある。アフガンの灌漑に人生を捧げた中村哲医師がお手本とした土木技術の粋が生かされている。水の大切さ、有り難さを実感する。

田植えの風景を眺めながら、現地に足を運ぶことの大切さを思う。土の匂いや水流の音、やさしい湿気を含んだ風、雲の間から射す初夏の太陽光線。そんな中に身を置く心地よさを感じる。快い汗を流したポタリングだった。
豊富な水量の用水路で元気に回る水車。重連水車群として文化財に指定されていて、今年は田植えの始まる6月17日から稼働を始めた。農繁期の間、回り続ける。水の力を利用してきた農業。近くには筑後川の山田堰がある。アフガンの灌漑に人生を捧げた中村哲医師がお手本とした土木技術の粋が生かされている。水の大切さ、有り難さを実感する。
田植えの風景を眺めながら、現地に足を運ぶことの大切さを思う。土の匂いや水流の音、やさしい湿気を含んだ風、雲の間から射す初夏の太陽光線。そんな中に身を置く心地よさを感じる。快い汗を流したポタリングだった。
2021年06月12日
生物はなぜ死ぬのか
ねえねえオカムラ、生き物ってなんで死ぬの? チコちゃんが言いそうな問いのタイトル、純粋に生物学的に、遺伝子の企み、DNAの働きを丁寧にまとめてある。科学的にどういう意味があって生物は生まれ死んでいくのか。突き詰めると、どこかで神の介在を認めざるを得なくなるが、それでもビッグバンに始まる宇宙の歴史の中で、今人類が栄えているのだということを改めて認識する意味はある。
キーワードは多様性。気の遠くなる時間、進化の過程で偶然に偶然が重なり、人類ができたと推測する。環境に有利なものが生き残っていって、今の地球の生物相がある。今急速なスピードで多くの生物が絶滅している。それは人類がもたらした環境破壊、温暖化のせいだ。人類が繁栄する限り環境破壊は続くのだろう。そして宇宙の歴史からすれば、ほんの一瞬の輝きを放って人類は絶滅していく運命らしい。
人類の生物学的な寿命は55歳。科学の進歩で人はどんどん長生きになってきたが、どんなに頑張っても150歳が限界という。長寿国ニッポンの高齢化もそろそろ頭打ちになってきて、これからの課題はどれだけ健康年齢を伸ばせるか。老化というのは人間に特有の現象らしくて、他の生き物は歳をとることなど意識せずに生きていて、突然スイッチが切れたように死ぬという。産卵したら死んでしまう鮭、交配したら死んでしまうカゲロウにはエサを食べるための口がないという話に、心を動かされた。新型コロナで毎日、死者の数がメディアに流れる時代。死の意味を考えることは、生きる意味を考えることと同じだと思った。小林武彦著。
キーワードは多様性。気の遠くなる時間、進化の過程で偶然に偶然が重なり、人類ができたと推測する。環境に有利なものが生き残っていって、今の地球の生物相がある。今急速なスピードで多くの生物が絶滅している。それは人類がもたらした環境破壊、温暖化のせいだ。人類が繁栄する限り環境破壊は続くのだろう。そして宇宙の歴史からすれば、ほんの一瞬の輝きを放って人類は絶滅していく運命らしい。
人類の生物学的な寿命は55歳。科学の進歩で人はどんどん長生きになってきたが、どんなに頑張っても150歳が限界という。長寿国ニッポンの高齢化もそろそろ頭打ちになってきて、これからの課題はどれだけ健康年齢を伸ばせるか。老化というのは人間に特有の現象らしくて、他の生き物は歳をとることなど意識せずに生きていて、突然スイッチが切れたように死ぬという。産卵したら死んでしまう鮭、交配したら死んでしまうカゲロウにはエサを食べるための口がないという話に、心を動かされた。新型コロナで毎日、死者の数がメディアに流れる時代。死の意味を考えることは、生きる意味を考えることと同じだと思った。小林武彦著。
2021年06月11日
日本の歴史をよみなおす
網野善彦さんが筑摩書房のスタッフに語った講義を1冊にまとめた文庫本。日本は農業中心の社会というイメージはどうして作られたのか、商工業者や芸能の民はなぜ賤視されるようになったのか。日本の中世の姿を分かりやすく解きほぐしている。
もともとは神や仏に仕える身だった人たち。遊女(太宰府では「うかれめ」と呼ばれた)や葬送の仕事をする人など職能集団は、権力が直接雇用していた。人が嫌う仕事がそのうち、「穢れ」の思想と結びつき差別の対象となり、蔑視されるようになっていったという。犬神人(いぬひじにん)という言葉も初めて聞いた。
女性の地位の問題も日本は女性文学が花ひらいた稀有な国であり、江戸から明治の政治権力が男尊女卑の考えを流布したという。天皇と「日本」という国号の話もなるほどと頷くことばかり。網野歴史学はなかなかに面白かった。
もともとは神や仏に仕える身だった人たち。遊女(太宰府では「うかれめ」と呼ばれた)や葬送の仕事をする人など職能集団は、権力が直接雇用していた。人が嫌う仕事がそのうち、「穢れ」の思想と結びつき差別の対象となり、蔑視されるようになっていったという。犬神人(いぬひじにん)という言葉も初めて聞いた。
女性の地位の問題も日本は女性文学が花ひらいた稀有な国であり、江戸から明治の政治権力が男尊女卑の考えを流布したという。天皇と「日本」という国号の話もなるほどと頷くことばかり。網野歴史学はなかなかに面白かった。