2019年02月25日

ある男

平野啓一郎さんの話題作「ある男」を読了した。結婚した相手がまったくの別人だったという奇妙な話から始まり、自分の辛い過去を消したい、人生をリセットしたいという、誰にでもありそうな願望が物語を展開させていく。

読み終えて思うのは、人の幸福というのは何だろうかということ。自らを振り返ってみると、家族がそろってワイワイと食卓を囲む、そんな平凡なひとときこそ、幸せを実感したりする。幼少期に親に虐待を受けたりした過去があれば、穏やかな毎日こそ、幸せと感じるだろう。

小説では、在日の登場人物がおり、ヘイトスピーチや関東大震災時の朝鮮人大虐殺のくだりも出てくる。殺すべき対象かどうか、「15円50銭と正しく発音してみろ」と屈辱的な命令を受けたという逸話もあり、ついこの前見た映画「金子文子と朴烈」でも出てきた、印象的なシーンを思い出した。偶然とはいえ、わずかな期間に見たり読んだりしたもので同じ話が出てくるのは不思議な気分だ。


ある男

ある男

  • 作者: 平野 啓一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 単行本












バラ型 フラワーソープ ハードフラワー形状 ギフトボックス入り 

バラ型 フラワーソープ ハードフラワー形状 ギフトボックス入り 

  • 出版社/メーカー: EVERJOYS
  • メディア: ホーム&キッチン
posted by あぶりん at 19:34| Comment(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月24日

ピルグリム2019

鴻上尚史さん主宰の劇団「第三舞台」の傑作といわれる「ピルグリム」(巡礼者、放浪者の意)の2019年版を新宿御苑前のシアターサンモールでみた。若い人たちとともに時代を駆けながら芝居を作っていきたいと鴻上さんが旗揚げした「虚構の劇団」。21世紀のネット社会にアップデートした内容で、いつも繋がっている故の現代人の孤独や自我の分裂を描こうとしている。

ネット調べでは、初演時は伝言ダイヤルが流行っていた頃で、そのメッセージを聞きながら脚本を書いたという。2019年版は、パソコン、スマホ、メール、SNSが主役で、ピルグリムの冒険はRPGのノリだ。オリジナルからあるコミューンの話も何となくカルト宗教を想起してしまう。オリジナルを見ていたら、さらに面白かったかもしれない。

妙な言動の類型化された◯[×]?族が次々と出てきて物語は進むが、それぞれのセリフがなかなかいい。見える自分と見えない自分、昼間の家主と夜の家主、肯定ペンギン。見ていて様々な思考が巡った。歌とダンスもキレキレで、気持ちの良い舞台だった。

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ピルグリム クラシック版

ピルグリム クラシック版

  • 作者: 鴻上 尚史
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2003/02
  • メディア: 単行本



リラックスのレッスン~緊張しない・あがらないために

リラックスのレッスン~緊張しない・あがらないために

  • 作者: 鴻上 尚史
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2019/01/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



幸福のヒント (だいわ文庫)

幸福のヒント (だいわ文庫)

  • 作者: 鴻上尚史
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2018/10/12
  • メディア: 文庫



不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)

  • 作者: 鴻上 尚史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/11/15
  • メディア: 新書



青空に飛ぶ

青空に飛ぶ

  • 作者: 鴻上 尚史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/08/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



鴻上尚史の俳優入門 (講談社文庫)

鴻上尚史の俳優入門 (講談社文庫)

  • 作者: 鴻上 尚史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/08/10
  • メディア: 文庫




posted by あぶりん at 14:54| Comment(0) | シネマ&演劇 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月21日

芥川賞、直木賞の授賞式

芥川賞、直木賞の授賞式をのぞいた。賞ができて84年で第160回。戦後4年お休みした以外は年2回、両賞の選考を続けてきたという。年中行事、文学のお祭りのようなものだ。

芥川は吉田修一さん、直木は桐野夏生さんが祝辞を述べた。芥川の上田岳弘さん「ニムロッド」は実に完成された小説のようで、吉田さんも絶賛。先日読了した「宝島」の真藤順丈さんは、桐野さんに「今日はジャージではないんですね」(カッコいい帽子とスーツだった)と言われていたが、受賞が決まってジャージが4つも家に贈られてきて、「直木賞の威力はすごい」と思ったそうだ。挨拶は、この1ヶ月でエッセーやトークショーで話し尽くして、もう言うことがないとスピーチし、笑いを誘っていた。今度のオール讀物には、真藤さんの半生記が載るらしく、本人曰く「これまでの、うだつの上がらない日々」を読んでみようかと思った。


第160回芥川賞受賞 ニムロッド

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

  • 作者: 上田 岳弘
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/01/26
  • メディア: 単行本



ニムロッド

ニムロッド

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/01/26
  • メディア: Kindle版



第160回芥川賞受賞 1R1分34秒

第160回芥川賞受賞 1R1分34秒

  • 作者: 町屋 良平
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/01/25
  • メディア: 単行本



私の恋人 (新潮文庫)

私の恋人 (新潮文庫)

  • 作者: 上田 岳弘
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/01/27
  • メディア: 文庫
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2019年02月17日

宝島

この度の直木賞をとった真藤順丈さんの「宝島」を読んだ。普天間基地移転のための辺野古埋め立て工事について沖縄県民投票が告示されたことが頭にあったのか。タイミンングよく手に取ることになった。

戦果アギヤー。米軍基地から資材や食糧を盗み出し、飢えた民衆に配る。伝説の島のヒーロー・オンちゃんと仲間たち(グスク、レイ、ヤマコ)の青春群像劇だ。コザを主舞台にウタキやノロといった土着の言い伝えが残る暮らしと、一方で米軍相手の歓楽街での生き様も活写する。学生時代から何度か訪れた沖縄の海、基地のある町を思い出しながら読み進めた。

米国の信託統治から日本本土への復帰。ドルから円に代わっても、基地は残った。街を分断する金網はそのままで、米兵が起こす事件・事故が減ることはなく、数え切れない人たちが犠牲になり続けている。沖縄ヤクザの抗争も盛り込まれていて、エンタメ小説として面白く読んだ。でも、何一つ変わらない沖縄の現実に痛切な思いもあらあめて募った。



第160回直木賞受賞 宝島

第160回直木賞受賞 宝島

  • 作者: 真藤 順丈
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/06/21
  • メディア: 単行本



宝島

宝島

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/06/21
  • メディア: Kindle版



夜の淵をひと廻り (角川文庫)

夜の淵をひと廻り (角川文庫)

  • 作者: 真藤 順丈
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/11/22
  • メディア: 文庫



庵堂三兄弟の聖職 (角川ホラー文庫)

庵堂三兄弟の聖職 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 真藤 順丈
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2010/08/25
  • メディア: 文庫
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2019年02月16日

金子文子と朴烈

渋谷のシアター・イメージフォーラムで封切り日に見た。映画館周辺には旭日旗を掲げる街宣右翼と警察警備課がいて、何事かという雰囲気。日韓関係が最悪と言われる中、反日的な映画の上映はけしからんということらしい。表現の自由という言葉を持ち出すまでもなく、上映を妨害しようとする動きは困ったものだ。

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関東大震災の時の朝鮮人虐殺を扱っていてテーマは重い。植民地支配に抗う、朝鮮人のテロリストと日本のアナキストというカップル。進んで囚われの身となり、大逆罪の法廷で自らの思いを訴える。朴烈はイ・ジェフン、文子はチェ・ヒソが演じるが、日本語とハングルを使い分けながら好演している。特に快活な文子を演じるチェ・ヒソは本当にチャーミングだった。韓国では235万人を動員するヒット作となったらしいが、イ・ジェフン人気と純愛映画として観る人が多かったようだ。

金子文子という人のことは今回、初めて知った。23歳で獄死したが、その短い人生を獄中手記「何が私をこうさせたか」に残している。文芸評論家の斎藤美奈子さんのコラムによると、文子は今でいう児童虐待の犠牲者で、出生届さえ出されず子供の頃は無戸籍だった。親戚に引き取られ朝鮮半島で悲惨な日々を送ったという。その後、文子は東京へ。朴の詩に惹かれて同棲し、不逞社という結社を立ち上げる。映画はこのあたりからのお話。
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映画には、金守珍さんはじめ新宿梁山泊の面々が出演していて、初日午前の上映後、舞台挨拶があった。日本での上映を実現した太秦の代表は、右翼の抗議行動に触れ、「映画は日本人にとって痛い内容も含んでいるが、こんな作品をしゃあしゃあと上映できるような時代にならないといけない」と話した。教科書では教えない事実を知り、かつて日韓の若い男女が命を燃やした物語として記憶することが、相互理解への一歩になると思う。


何が私をこうさせたか――獄中手記 (岩波文庫)

何が私をこうさせたか――獄中手記 (岩波文庫)

  • 作者: 金子 文子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/12/16
  • メディア: 文庫



常磐の木 金子文子と朴烈の愛

常磐の木 金子文子と朴烈の愛

  • 作者: キム ビョラ
  • 出版社/メーカー: 同時代社
  • 発売日: 2018/04/11
  • メディア: 単行本
posted by あぶりん at 18:34| Comment(0) | シネマ&演劇 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする