2018年01月28日

ジュピターズ・ムーン

ハンガリーのコーネル・ムンドルッツォ監督作品。ガリレオが見つけた木星の衛星エウロパ、ヨーロッパと綴りが同じこの星の愛称を作品の題名にしている。SF仕立てだが、難民問題やテロリズムなど、ヨーロッパが抱える問題が描き出されている。

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国境を突破したシリア難民の少年が「天使」のように空中を浮遊できるようになる。不法移民、テロリストの嫌疑をかけられ逃走する中で、「奇跡」を起こす。目先のことにとらわれ、空を、天を見上げることがなかった人々が天上に舞う少年=天使を見て、涙する。


安楽死やLGBTの話も盛り込まれているが、キリスト教文化圏における「神の存在」、人間と神といった宗教的なテーゼの方に思考は及ぶ。生身の人間が空中浮遊するという、ある意味シンプルな神業を際立たせ、エンタテイメント作品にした監督の手腕に感心した。
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2018年01月22日

秘密の花園

アングラ演劇を若手演出家が読み直す東京芸術劇場のシリーズで、福原充則演出の「秘密の花園」をみた。唐十郎が本多劇場のこけら落としのために書き下ろした。新築の舞台を水浸しにした伝説の作品だ。


日暮里のアパートの一室。ホステスいちよ夫婦に客の青年アキヨシが絡み物語が展開していく。洪水、菖蒲湯、坂道、自転車、草笛-イメージの連鎖。独特な色気のある寺島しのぶ、父・柄本明が初演した役を演じた柄本佑、ナレーションではないナマの田口トモロヲを初めて見た。


さすがにテント芝居の、あの猥雑さは少し足りなかったが、あのバイオリンのメロディーが響く、衝撃の場面、クライマックスでは、背筋にゾゾッとくる、エクスタシーのような感覚を味わった。言葉では言い表せない、やるせない気持ち、やはり傑作戯曲だと思った。

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2018年01月17日

熊谷守一 生きるよろこび

没後40年、久しぶりの東京での回顧展を竹橋の東京国立近代美術館に見に行った。青木繁と同世代の人で、明治から昭和にわたり97年の生涯に描いた作品200点余が展示されている。


明るい色彩、はっきりしたかたちが特徴らしいが、若いころは暗い色調が目立つ。子どもを失うなど苦難を経験しながらも画業に打ち込み、晩年になって独自の画境に到達したという。


作品は、明るい色調とともにより抽象化、シンプルなかたちになっていく。題材は近所の野良猫や、魚、草花など。悲しみを飲み込んだ、カラッと乾いた明るさ、心がポッと温かくなる。そんな印象を抱いた。

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熊谷守一の猫

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  • 作者: 熊谷 守一
  • 出版社/メーカー: 求龍堂
  • 発売日: 2004/09/01
  • メディア: 単行本



もっと知りたい熊谷守一 ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

もっと知りたい熊谷守一 ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

  • 作者: 池田 良平
  • 出版社/メーカー: 東京美術
  • 発売日: 2017/12/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



いのちへのまなざし 熊谷守一評伝 (美の人物伝)

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  • 作者: 福井淳子
  • 出版社/メーカー: 求龍堂
  • 発売日: 2018/02/22
  • メディア: 単行本



熊谷守一 画家と小さな生きものたち

熊谷守一 画家と小さな生きものたち

  • 作者: 林 綾野
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/03/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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2018年01月15日

花咲くころ

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岩波ホール創立50周年記念作品の第1弾、ジョージア(旧グルジア)の映画を試写でみた。ソ連からの独立後、内戦下の首都トビリシを舞台に多感な少女たちの日常を描く。


1974年、総支配人の高野悦子さんがエキプ・ド・シネマを始め、商業ベースになりにくい内外の映画を上映してきた。アジア、アフリカなどを中心に現在まで245本、55カ国の作品を単館上映してきたという。日本では毎年、1200本の映画が公開され、消費されているが、「映画の公開は再創造である」という理念の下、埋もれさせてはいけない、見て欲しい作品をセレクトし、公開を続けている。


「花咲くころ」では、物資が欠乏している食生活や、武器が簡単に手に入る日常、伝統的に行われている誘拐婚の話などが出てきて、驚かされる。その一方で、華やかな民族衣装を着て踊る少女たちはその独特のエキゾチックな顔立ちと澄んだ目が美しく、印象に残った。

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2018年01月13日

デトロイト

「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督最新作。1967年、米国第5の都市・デトロイトで起きた暴動の内幕を描いた、ドキュメンタリータッチの作品を試写会でみた。死者43人、負傷者1100人超。白人警官による黒人たちへの弾圧、暴力は50年以上たった今も続いている。「人種のサラダボール」といわれる米国の人種差別の根深さをニュースで見聞きしている身としては、衝撃というよりもため息の方が先に立つ。


延々と続く警官による尋問シーンは、見ているだけで胸が苦しくなる。身体的、精神的に追い詰める執拗なやり口。警察や軍隊など権力を持つ側の暴力の怖さをあらためて思い知る。


米国では、年間およそ300人が警官によって殺されている(主に射殺か?)という。銃が野放しの国とはいえ、日本ではとても考えられない。国内で深刻な差別問題を抱えながら、世界に向けては民主主義と人権を旗印に外交を進めてきた米国の矛盾。国際政治の複雑怪奇な実態を思う。
posted by あぶりん at 18:30| Comment(0) | シネマ&演劇 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする