2017年06月30日

ベター・ハーフ

鴻上尚史作・演出で2年ぶりの再演を、下北沢・本多劇場で観た。風間俊介、中村中、片桐仁の再演組に、松井玲奈が新加入。テンポのいい、大人のラブコメといったところだが、しっかり完成された舞台だった。もちろん大いに笑い、ぐっと考えるところもあった。


鴻上さんによると、ベター・ハーフとは、ギリシャ時代に生まれた考え方で、天国で一つだった魂が現世で男と女の二つに分かれたと、プラトンも紹介している。現世で自分の魂の半分と出会う、それがベター・ハーフで、英語圏では夫婦や恋人のことを、ちょっとおしゃれにそう呼んだりする。


元SKEの松井は、デリヘル嬢役で「フェ×××」とか、「ス××」とか、エッチな言葉を大声で連発するシーンが続く。かつて清純路線で売っていた元アイドルに、あえて過激なセリフを言わせてみたい、そんな演出家の少しサディスティックな欲望を感じる。そのギャップに客席は大いに盛り上がったけれど。


かつてトランスジェンダーであることをカミングアウトして話題になった女優・シンガーの中村は、自身の経歴そのままの役。ピアノ弾き語りの歌声は、結構艶っぽくて、「サントワマミー」なんか絶品だった。片桐、風間のボケツッコミもバッチリで、はまり役。


作品の背景には、トランスジェンダーへの偏見や、貧困女子の実態などがあるが、心に残るのはベター・ハーフを探し求める男女4人の必死なまなざし。老若男女、だれが観ても「恋愛」というものがしたくなる。


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2017年06月25日

血花血縄

第11回岸田理生アヴァンギャルドフェスティバルの企画として、こまばアゴラ劇場での公演をみた。平成緊縛官能奇譚というサブタイトルで、岸田が有沢美喜の名で出版した官能小説を初めて舞台化したという。赤い縄につながれた母親と娘たち。男や家に束縛された女の性、それからの解放をメッセージとして描く。


舞台の中央で片肌脱いだ能面をつけた女を、真っ赤な着物を着た女が縄で縛り、鞭打つ。それはまるで女たちの置かれた状況を象徴するように。ハララビハビコと北條華生、ともにSM界のプロ(らしい)が出演し、極限のエロスを表現する。前衛的な試みではあった。


父親役の高仲祐之の声はなかなか渋い。声優をしていると知り、なるほどと納得。ギターと二胡の生演奏、提灯の灯りも淫靡な暗い雰囲気を醸し出していたが、観客の半分を占めた女性は結構あっけらかんとしていて、隣りでガムをくちゃくちゃやりながら観劇されたのには少々参った。
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2017年06月18日

腰巻おぼろ 妖鯨篇


新宿梁山泊の創立30周年記念公演第2弾「腰巻おぼろ 妖鯨篇」を新宿・花園神社で観た。唐十郎が1975年、上野不忍池の紅テントで演じて以来、42年ぶりの再演。分厚い台本でふつうに演じると4時間超になるのを、演出の金守珍がぎゅっと圧縮して3幕にしたという。それでも公演は10分休憩2回をはさみ約3時間、靖国通りの喧噪が時折聞こえてくる紫テントの中で、濃密な情念の世界が繰り広げられた。


 



赤い腰巻のおぼろ・水嶋カンナ、ガマという名の少年・申大樹、千里眼の大鶴義丹、サメ肌の大久保鷹。異様で滑稽で、どこか哀しい人物たちが次々と登場する。今回は大時代なタンスが、場面転換のどこでもドア。星座、星占い、捕鯨船、ピノキオ、株式市場と、イメージの連鎖は続く。


 



初演で千里眼を演じたのはもちろん唐十郎。長男の大鶴が今回、同じ役を演じ、「現代の歌舞伎のような」一子相伝の芸となった、とは終演後の金のあいさつの弁。宇野亞喜良の美術は相変わらず作品世界にぴったり、むしろ美術からイメージが喚起されているともいえる。


 


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2017年06月15日

美しい星


読んでから見るか、見てから読むか。このほど映画化された三島由紀夫の「美しい星」はまず読んでから見ることにした。



 



平凡な家族がある日突然、宇宙人であることを自覚する。あの三島が昭和30年代にこんなSF作品を残していたことに驚いた。当時、世界的話題になった空飛ぶ円盤、マンテル大尉事件や米国・ソ連の核実験など、実際のニュース・世相にビビットに反応している。宇宙人や円盤(UFO)は当時、いかがわしいものとの見方がある一方で、わが国最初の全国的UFO研究団体「日本空飛ぶ円盤協会」が設立され、三島はじめ石原慎太郎や星新一、糸川英夫ら著名文化人が会員として名を連ねている。そうした時代背景を考えれば、時代の先端をいく三島が、宇宙人やUFOをテーマに小説を書いたとしても不思議はない。実際、その文明批判、深い味わいは、現代作家に例えれば筒井康隆の作品のようだ。



 



思想小説ともいわれる作品には、人類の未来について、多くの警句的文言がちりばめられている。「来るべき核戦争は集団の憎悪によって起こるよりは、そんなものと関係のない個人の気まぐれな錯乱や不幸な偶然から起こるだろう」「地球なる一惑星に住める人間なる一種族ここに眠る。彼らはなかなか芸術家であった。彼らは喜悦と悲嘆に同じ象徴を用いた。彼らは他の自由を剥奪して、それによって辛うじて自分の自由を相対的に確認した。彼らは時間を征服しえず、その代わりにせめて時間に不忠実であろうと試みた。そして時には、彼らは虚無をしばらく自分の息で吹き飛ばす術を知っていた」



 



試写を見た同僚によると、映画はわかりにくかったとか。「読んでから見る」のが正解かも。


 



美しい星 (新潮文庫)

美しい星 (新潮文庫)



  • 作者: 三島 由紀夫

  • 出版社/メーカー: 新潮社

  • 発売日: 2003/09

  • メディア: 文庫






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2017年06月10日

HANGA JUNGLE展

アーティスト横尾忠則さんの「HANGA」作品をみるため、町田市立国際版画美術館に行った。版画の枠を超えた作品群なのでHANGAなんだとか。約250点、横尾さん独特のサイケデリックな作品が並ぶ。


なぜ横尾さんの作品かというと、寺山修司の天井桟敷や唐十郎の状況劇場のポスターに惹かれたから。あのポスターたちは、実は当時、横尾作品の最も適切な発表の場だったという。芝居のストーリーや出演者の情報を入れて、どんなHANGAポスターにまとめるか、納品は公演ぎりぎりになることがしばしばだったらしい。


インドやヒッピー、セックスアピール。かつての60、70年代のカルチャーが、アーティストのアタマの中でまざり、多様な意匠となって表現される。少年のころに夢中になったターザンや21面相なども作品にはしばしば登場する。


会場の国際版画美術館は緑あふれる芹ケ谷公園の一角にあり、休日には親子連れが弁当を広げたり、水遊びに興じたりする憩いのスポット。


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posted by あぶりん at 18:36| Comment(0) | TrackBack(0) | アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする