2017年03月31日

フライデー・ナイト・ミュージアム

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上野の東京国立博物館でナイト・ミュージアムのトークライブがあった。「視るをデザインする」というテーマ。NPO法人インビジブルの林暁甫さんの司会でアーティスト鈴木康広さんと、東博デザイン室長の木下史青さんがゲストだった。

「自然」に対して、アートはそもそも「不自然なこと」と定義する鈴木さん。公園によくある「グローブジャングル」という地球型の回転遊具を夜間に回して、それをスクリーンとして、昼間に撮った子どもたちの遊ぶ姿を投影する作品を手始めに、独自の視点から創造したアート作品の紹介があった。そのどれも着眼点が面白い。「ファスナーの船」は、ファスナーの形をしたラジコンの船を池に走らせて、その尾を引く波紋が池の水面を「開いている」ように見せる。瀬戸内の海では、普通の船舶をファスナー型に改造して、海を「開いて」みせた。「まばたきの葉」は、目のまばたきを人生に見立て、落ち葉のように浮遊させた。

東博の木下さんは、かのジョー・プライスのコレクション展や、阿修羅展などの展示・照明を手がけたスペシャリストで、かつて中学3年生の国語教科書に、そのプロの仕事を描いたエッセーが載ったことがあるという。

「土偶からパンダへ」というセッションでは、東博の井上洋一・学芸企画部長とエッセイスト・ラジオパーソナリティーの藤岡みなみさんが対談。藤岡さんは、「土偶女子」の代表ということで、井上さんと二人で土偶ラブを炸裂させていたが、体形は予想していた土偶ではなくて、KAWAII女子であった。遮光器土偶、中空土偶、縄文のビーナス、仮面の女神、みみずく土偶と、いろんなニックネームがあるのを知った。土偶の国宝は現在5つで、函館の中空土偶は北海道で唯一の国宝なんだとか。トリビアがいっぱいの博物館トークだった。

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2017年03月30日

東山彰良さんの直木賞受賞作。台湾を舞台にした大河ドラマ風の青春エンタメ小説というべきか。中国大陸が舞台の文学作品は、三国志や水滸伝、項羽と劉邦など、古典や日本人作家の書いたものを結構、読んできた。でも、台湾は考えてみると初めてで、その点では新鮮だった。登場人物の名前の読みに閉口し、途中からは我流の日本語読みで通したが、途中からはジェットコースターのように一気に読めた。作品を貫く猥雑な中華街の雰囲気。一度でも台湾を旅行していれば、もっと感情移入できたかも。

椎名誠さんがかつて書いていたのは、旅先での読書の醍醐味。南海の孤島に行くときは、漂流記を持参し、星空の下のキャンプでは、宇宙の本を読む。環境のおかげで想像力の翼は大きく広がる。考えただけでわくわくする。最近はいつも旅先とはいかず、家での読書が多いけれど、書店に行くとかつて旅した土地にまつわる本につい手が伸びる。暖かくなってきた。本を持って旅に出よう。

流

  • 作者: 東山 彰良
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/05/13
  • メディア: 単行本


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2017年03月28日

理系に学ぶ。

映画、小説とマルチな才能で当代一のヒットメーカー川村元気さんが、気鋭の「理系人間」たちと対談した一冊。数学、理科がからっきしで、私大文系に走った川村さん。それでも理系の知識がなければ、これからの世界を見通すことはできないと、インタビューに臨んだ。各分野の権威、トップランナーが15人。初めて名前を聞く人もあったが、読んでみると「ああ」と関連ニュースが思い浮かぶ人がほとんどだった。


面白かったベスト3は―ご存知、養老孟司センセイ。昔聞いた講演で「最近の男の子が元気がないのは、洋式トイレのせい。男の子なのに座って用を足させる母親が多い」と指摘、タチションの効用を力説していた。今回も「生物として持っている能力を使わないでいると、人間だめになる」など、生物学的見地から、なるほどと思わせる話がいっぱいだった。


続いて、ミドリムシの権威、出雲充さん。ユーグレナという会社の社長で、胡散臭い会社かと思っていたら、とんでもない認識不足だった。屋外での大規模養殖に成功し、世界の栄養不足解消へ一歩一歩、研究を進めているという。未来の燃料にも期待がかかるのだとか。その技術を、諸外国が虎視眈々と狙っているという、スパイ小説もどきの話もあった。


ロボットクリエイターの高橋知隆さんは、スマホの次は、小型のヒューマノイドロボットの時代が来るという。最近CMにも出演している、あのミニロボット。iPhoneはSiriという音声認識機能を入れたけど、そんなに使われていないらしい。確かにスマホに話しかけるのは、恥ずかしい。それが人型のかわいいロボットなら、話しかけられるのではないか。コミュニケーションができるロボットと、スマホの二つ持ちで出掛ける。すぐそこに、そんな時代が来ているという。

理系に学ぶ。

理系に学ぶ。

  • 作者: 川村 元気
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2016/04/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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2017年03月27日

わたしは、ダニエル・ブレイク

深刻化する格差社会における貧困。行きすぎた市場主義、「小さな政府」の国では、手厚い福祉ではなく、自立支援へと社会保障制度は傾斜している。自己責任で食べていく。それは確かに理想かもしれないが、こぼれ落ちた人たちを救うのは、もはや公的機関ではなく、NGOの仕事になっている。映画の舞台の英国では、日本の生活保護とは違い、フードバンクで食べ物を配給する形の現物支給が主流だという。

作品は、病気で働けなくなった初老の男と、母子家庭の親子が、互いに助け合い、何とか生きようとする姿をリアルに描く。役所でたらい回しにされたり、ネットでの手続きに戸惑ったりする様は、日本の役所でもありそう。いったん会社から離れて職を失えば、自らもこんな風に困窮するのは、もはや非現実的ではない。そんな時代になってしまった。ケン・ローチ監督。

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2017年03月26日

荷風になりたい

ビッグコミック連載中のまんが「荷風になりたい」(原作倉科遼、作画ケン月影)を気に入って読んでいる。東京の下町に住み、浅草や向島あたりの色街を徘徊した作家の生き方を描く。究極のオスまんがというキャッチフレーズで、不良老人指南というサブタイトルがつく。大正から戦前の昭和だから、東京にもまだ江戸の風情が残っていたろう。まんがでは好色な場面も多々出てくるが、その底流には粋とロマンチシズムがある。このブログのタイトルはそもそも永井荷風の「断腸亭日乗」をもじったもの。荷風のような老人になるのが自分にとって一つの目標だ。まんがの人気を見ると、自分と同じ考えの諸氏が意外と多いのかとも思う。不良老人になるというのは、嵐山光三郎も以前から推奨しており、普段からちゃんとした心がけを持たねばならないと力説していた。それは、日常をおもしろがる、好奇心を維持すること。不良老人への道は険しい。

荷風になりたい~不良老人指南~ 1 (ビッグコミックス)

荷風になりたい~不良老人指南~ 1 (ビッグコミックス)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2016/09/30
  • メディア: コミック

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