ヒトラーはいかにして権力を握り、ドイツ国民は熱狂的にナチを支持したのか。歴史的な事実を踏まえながら、経済回復はナチの功績か、ナチスは労働者の味方だったのか、手厚い家族支援、先進的な環境保護政策は真実なのか、ナチスは健康帝国だったのかといった、よく主張されるポイントについて回答していく。何かというとポリコレ(ポリティカルコレクトネス)を錦の御旗にする傾向がある昨今。こうした世間に鬱陶しさを感じる(その気持ちも分からないではないが)人たちが「ナチスは良いこともした」という主張に飛び付くきらいがあるという。
検証では、どの政策もナチスのオリジナルではなく、ヴァイマール体制からの政策を上手に利用し、大々的なプロパガンダでナチスの手柄としたことが示される。さまざまな国民向けの政策もあくまでアーリア人に向けたもので、ユダヤ人や障がい者は対象外。すべては戦争遂行のためで、民族浄化、優生思想によるホロコーストにつながった。歴史の中の断片を取り上げて、よく考察することもなく声高に主張することの愚かさを改めて思う。

検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? (岩波ブックレット 1080) - 小野寺 拓也, 田野 大輔
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